取引先から「Scope2を削減してほしい」と言われたとき、真っ先に思い浮かぶのは太陽光導入かもしれない。しかし再エネ電力の活用方法は設備投資だけではない。証書を購入するだけで帳票上のCO₂をゼロにする方法もある。この記事でScope2削減の3つのルートを整理する。
Scope2とは何か
Scope2は、自社が購入・消費した電力・熱に由来するCO₂排出量のことだ。工場の電力消費量(kWh)に電力会社の排出係数(tCO₂/kWh)を掛け合わせて算出する。
日本の系統電力の平均排出係数は約0.43 kgCO₂/kWh(2023年度実績値)。月100,000kWh消費する工場なら、年間約516tCO₂がScope2に計上される。取引先のScope3削減要求の大半は、このScope2の削減を指している。
Scope2を削減する3つの方法
方法①
再エネ設備の自家消費(太陽光・BESS)
- 仕組み
- 自社に太陽光パネルを設置し、発電した電力を工場内で直接使用する。自家消費分は排出係数ゼロとして計上できる。
- 削減の確実性
- 高い(物理的に再エネ電力を使っているため)
- 初期コスト
- 高い(設備投資が必要。SII補助金・税制優遇で軽減可)
- Scope2削減率
- 自家消費率次第。BESSと組み合わせると50〜70%の削減も可能
- CDP・SBT対応
- ◎(市場基準法・立地基準法どちらでも認められる)
方法②
非化石証書・グリーン電力証書の購入
- 仕組み
- 再エネ発電所が発電した電力の「環境価値」を証書として購入する。物理的な電力の流れは変わらないが、帳票上の排出量をゼロにできる。
- 非化石証書とは
- FIT制度で発電した再エネ電力の環境価値を分離した証書(日本固有)。日本卸電力取引所(JEPX)の再エネ価値取引市場で取引される。最安値で0.3円/kWh程度から購入可能。
- グリーン電力証書とは
- FIT以外の再エネ発電所(風力・太陽光等)の環境価値を証書化したもの。単価は1〜3円/kWh程度。
- 初期コスト
- 低い(設備投資不要。証書購入費のみ)
- CDP・SBT対応
- △(市場基準法では認められる。一部要件では「追加性」のある証書が求められる)
方法③
再エネ電力メニューへの切り替え(電力会社)
- 仕組み
- 電力会社が提供する再エネ指定の電力メニューを契約する。供給される電力に再エネ由来の環境価値がセットされており、Scope2をゼロまたは低減できる。
- 手軽さ
- 高い(契約変更のみ。設備工事不要)
- コスト
- 通常の電力メニューより0.5〜1.5円/kWh程度高い場合が多い(高圧受電の場合。プランや事業者により変動)
- CDP・SBT対応
- △〜○(証書の種類・トラッキング要件によって異なる)
3つの方法の比較
| 自家消費(太陽光+BESS) | 証書購入 | 再エネ電力メニュー | |
|---|---|---|---|
| 初期コスト | 高 | 低(ゼロ〜) | 低(ゼロ〜) |
| ランニングコスト | 低(電気代削減) | 中(証書購入費) | 中(割増単価) |
| 削減の実質性 | 高(物理的削減) | 低〜中(帳票上の削減) | 中(電力自体が再エネ) |
| CDP・厳格なSBT対応 | ◎ | △(要確認) | △〜○(要確認) |
| すぐ実行できるか | △(設備工事が必要) | ◎(すぐ購入可) | ○(契約変更のみ) |
現実的な組み合わせ戦略:
短期(今すぐ):証書購入または再エネ電力メニューで帳票上の削減を先に確保
中長期(2〜3年):太陽光+BESSを導入して物理的な削減に移行。証書依存を減らす
取引先がCDPや厳格なSBTを求める場合は、証書だけでは不十分なケースがあるため、自家消費への移行を計画に組み込む。
※ 非化石証書の「追加性」要件(FIT非化石証書の取り扱い)やCDPのスコアリング基準は変更される場合がある。取引先の要件を確認したうえで方法を選択すること。