「うちは対象外」——省エネ法改正のニュースを見た中小製造業の多くがそう思う。実際、条文上は正しい。原油換算年間1,500kL以上という基準に、中小の工場はまず該当しない。それでも今、対応を迫られる中小製造業が増えている理由は、この法律が「取引先経由」で効いてくる構造にある。
この記事では、なぜ省エネ法の義務が「対象外のはずの中小製造業」に届くのか、そして今年中に何をすべきかを整理する。
2022年省エネ法改正で何が変わった
2022年(令和4年)に成立し、2023年(令和5年)4月に施行された省エネ法改正で、年間エネルギー使用量が原油換算1,500kL以上の
「特定事業者」(全国約1.2万社[4])に、新たな義務が加わった[1]。
非化石エネルギー転換計画の策定・報告
エネルギーの非化石化(再生可能エネルギーや電化など)に向けた中長期計画を策定し、国への定期報告書に記載することが義務化された。
2023年度から段階的に施行されており、2026年度には対象企業の大半が報告サイクルに入る。
中小製造業のサプライヤーが部品を納めている大手メーカーには、アイシン、パナソニック、住友電工などがある。いずれもこの特定事業者に該当する規模だ。
大手の義務が中小に届くメカニズム
特定事業者が非化石化を求められるのは、あくまで自社のエネルギー消費だ。では、なぜそれが中小製造業に関係するのか。
Scope3目標と連動しているからだ。
大手メーカーは省エネ法の義務に加えて、投資家・顧客・ESG評価機関からScope3削減目標(サプライチェーン全体のCO₂削減)の開示を
求められている。Scope3のカテゴリ1(購入した製品・サービス)は、部品を納めるサプライヤーの排出量がそのまま乗ってくる。
大手が「2030年にScope3を30%削減」と宣言したとき、その達成手段のひとつがサプライヤーへの脱炭素要請だ。法的な義務ではないが、取引継続の条件として機能し始めている。省エネ法の義務化が大手の行動を加速させ、その圧力がサプライチェーンを下に流れてくる。
これが現在起きている構造だ。
2026年に何が変わるのか
2026年度は、この圧力が目に見えて強まる節目になる。大手が動かざるを得ないイベントが5つ重なるためだ。
2023年度以降に策定された非化石転換計画の初期報告期限が2026年度前後に集中している。「達成状況」を示さなければならないため、
大手はサプライヤーへの働きかけを強める動きに出やすい。
移行した
CBAMの移行期間は2025年末に終了し、2026年から本格適用フェーズに入った[2]。証書の実際の購入・納付義務が生じるのは2027年からだ。欧州向けに輸出している大手日本メーカーにとって、
サプライヤーのCO₂排出量は直接コストに関わる問題になる。
サプライヤーの排出量も含まれるため、Tier1の下請けにも影響が及ぶ。
報告指令)が中堅企業に拡大する
2024年からEU大企業への適用が始まったCSRDは、2026年会計年度分(報告は2027年〜)から欧州域内の上場中小・中堅企業に段階的に拡大される(対象企業は2028年1月1日より前に開始する事業年度分の報告を猶予できる制度もある)。欧州に子会社を持つ日本の大手メーカーへの直接適用は2028年会計年度(報告は2029年〜)の見通しだが、欧州取引先からのScope3開示要求は既に現在も進行中であり、Tier2・Tier3への調査票は今後さらに増加する。
Scope3開示が求められるため、日本の中小サプライヤーにも間接的に影響する。
SBT認定を取得した大手は5年ごとに目標を更新・強化する必要がある。2021年前後に認定を取得した企業が2026年に更新時期を迎え、
目標が厳しくなるほどサプライヤーへの要求も上がる。
取り組み状況が審査基準に含まれる。
本格稼働した
2026年4月にGX-ETSが制度上スタートした[3](2026年度は移行期間にあたり、排出枠の割当ては2027年度から)。対象は省エネ法の特定事業者よりも絞られた、CO₂排出量の多い大規模事業者(3年度平均で年10万トン以上)だが、
対象企業が排出量枠を購入するより「サプライヤーに削減させる」ほうがコストを抑えられる局面が生まれ、Tier2・Tier3への削減要請が新たな動機を得る。
日本の温室効果ガス排出量の約6割をカバーする見込みで、排出枠を超えた企業は他社から枠を購入するか自ら削減する必要がある。
中小製造業がいま取るべき
3つのアクション
GX-ETSやCBAMのようにコスト増に直結する制度が重なる年だからこそ、大手の義務化を待って動くのではなく、
先に動いておくことで交渉力と選択肢が広がる。
まず「現在どこにいるか」を数字にすること。電気代明細から12ヶ月分の電力使用量(kWh)を集め、排出係数を掛ければ
Scope2排出量が出る。この数字が、取引先への回答書・削減計画書の出発点になる。計算方法はこちら → 「CO₂排出量の算出と回答方法」
選択をする
電力会社の切り替え、太陽光PPA(電力購入契約)、自家消費型蓄電池(BESS)は、いずれも「再エネ比率を上げる」という文脈で取引先に
説明できる打ち手だ。「現在PPAを導入中で〇〇年度に〇〇%を見込む」と答えられるかどうかで印象が大きく変わる。
SIIが執行する省エネルギー補助金(補助率1/3以内)のうちDR(需給調整市場)参加を要件とする補助金の申請には、アグリゲーター選定・交渉(1〜2ヶ月)→ DR参加設計・設備見積もり(1〜2ヶ月)→ 申請書作成(1ヶ月)と、最低4〜5ヶ月のリードタイムがかかる。
来年度(R9・令和9年度の公募)を目標に、今年度内に着手の目処をつけることが最短経路だ。準備期間が長いほど、アグリゲーターとの
手数料交渉で有利な条件が引き出せ、設備業者を複数比較してコストを削れる。設備が稼働し始める日が1日早まれば、
電気代の削減もその分だけ早く始まる——年間削減効果が300万円なら、1ヶ月の差は25万円だ。
まとめ
省エネ法の義務は今のところ大手にしか届いていない。だが「義務が届く企業」が脱炭素を本格化させるほど、「義務が届かない企業
(中小サプライヤー)」への圧力は強まる。2026年はその力学が一気に加速する年だ。
早く動くほど有利になる構造は変わらない。アクション③の試算例(年間削減効果300万円のケース)では、着手が1ヶ月早まるだけで25万円の差が生まれた。
取引先から脱炭素の調査票が届いた、
または来年度の補助金申請に備えて
動き始めたい方は、
現状と知りたいことをご連絡ください。
返信は通常1〜2営業日以内。
強引な営業は一切行いません。