「年間の電力使用量と、CO₂排出量を記入してください」——調査票に書かれたその一行を見て、手が止まった。
電気代の明細は毎月見ているが、
「CO₂排出量」を計算したことはない。
どこから手をつければいいかわからない。

実は、Scope2(電力由来のCO₂排出量)の計算は単純な掛け算1本だ。電力使用量(kWh)に「排出係数」(詳しくは後述する)を掛けるだけで出る。
この数字は電気代明細に必ず記載があるため、追加の調査をしなくても手元のデータで計算できる。この記事では、調査票を受け取った中小製造業が1〜2時間で回答の数字を出せる手順を整理する。


調査票は何を聞いているのか

取引先から届く脱炭素調査票の多くは、以下の項目で構成されている。

質問項目 区分 何を準備するか
年間電力使用量(kWh) 共通 電気代明細に記載のkWh(12ヶ月分の合計)
CO₂排出量(Scope2、t-CO₂) ⚡電力由来 明細に記載がある場合はそのまま使用可。なければ電力使用量 × 排出係数で計算
CO₂排出量(Scope1、t-CO₂) 🔥燃料由来 燃料使用量 × 燃料別排出係数で計算
再生可能エネルギー比率(%) 共通 自家発電した太陽光等の再エネ電力量 ÷ 年間電力使用量で計算する。自家発電がなければ「0%」で問題ない
削減目標・計画 共通 「検討中」でも記入できる(欄の使い方は後述)

まず手元の調査票を確認して「どの欄が埋まっていないか」を把握することが出発点だ。


Scope2の計算——
電力由来のCO₂排出量

Scope2とは、購入した電力に伴う間接排出量のこと。

生産ラインの稼働・空調・照明など、工場が使うエネルギーの大半は電気だ。一方、灯油やA重油を焚くボイラー、軽油で動くフォークリフトのように燃料を直接燃やす設備を持つかどうかは、業種や工程によって差がある。そのため、多くの中小製造業にとってはこのScope2(電力由来)の計算が、排出量把握の出発点になる。

Scope2排出量(kg/年)= 電力使用量
(kWh/年)× 排出係数(kg-CO₂/kWh)

まず、大手電力会社(東北電力・東京電力など)のWebポータルでダウンロードできる月次明細や年次利用レポートに、CO₂排出量(kg)が
すでに記載されているか
を確認する。

A

記載されている場合

その数字が「調整後排出係数」ベースのCO₂排出量だと確認できれば、そのまま調査票に転記して完了だ。「基礎排出係数」ベースだった場合は、Bに進んで計算し直す。どちらの係数が使われているか明細だけで判断できない場合は、契約している電力会社に直接問い合わせて確認するのが確実だ。

B

記載されていない場合
(新電力のプランに多い)

以下のステップで計算できる。

Step1 電力使用量の合計を出す

電気代明細の「電力使用量(kWh)」を12ヶ月分合計する。明細が手元にない場合は、電力会社のWebポータルでダウンロードできる。
(過去24ヶ月分が多い)それも難しければ、直近1ヶ月のkWhを12倍して概算を出す。

Step2 排出係数を調べる

排出係数は電力会社・プランによって異なる。環境省が毎年「電気事業者別排出係数」として公表している。

電力会社 調整後排出係数(2024年度・令和6年度)
東北電力0.400 kg-CO₂/kWh
東京電力エナジーパートナー0.421 kg-CO₂/kWh
関西電力0.396 kg-CO₂/kWh
九州電力0.449 kg-CO₂/kWh

出典:環境省 令和6年度排出係数(令和8年度算定・報告用、2026年1月公表)1。上記以外の電力会社・新電力の係数は同一覧で確認できる。ただし一覧の中には、電力調達の把握率が低いなどの理由で「0.000000」や「-」(未把握)となっている事業者もある。その場合はこの数字をそのまま使わず、契約している電力会社に直接問い合わせて排出係数を確認してほしい。

※環境省が公表している排出係数の原本単位は「t-CO₂/kWh」で、東北電力を例にすると0.000400にあたる。本記事では読みやすさのため、この数値を1,000倍して「kg-CO₂/kWh」に換算して掲載している。たとえば東北電力の0.000400 t-CO₂/kWhは、0.400 kg-CO₂/kWhとなる。環境省の公表資料を直接確認する場合は、この換算を踏まえて数値を照合する。

Step3 掛け算する

例:年間150,000kWhを使う工場
(東北電力管内)の場合

150,000 kWh × 0.400 kg-CO₂/kWh = 60,000 kg = 60.0 t-CO₂/年
→ この数字が調査票の「Scope2排出量」欄に入る。

Scope1の計算——
燃料由来のCO₂排出量

Scope2の数字が出たら、もう一つの排出源であるScope1(燃料由来)を確認する。

Scope1とは、自社が燃料を直接燃やすことで出るCO₂排出量のこと。

製造業の現場でよく対象になるのは、
ボイラー・社用車・工業炉などの燃料燃焼設備だ。

Scope1排出量(kg/年)= 燃料使用量
(L・kg・Nm³)× 燃料別排出係数

主な燃料の排出係数と主な用途2
(環境省 算定・報告・公表制度より):

燃料 排出係数 主な用途
灯油2.50 kg-CO₂/Lボイラー・暖房
A重油2.75 kg-CO₂/L大型ボイラー・工業炉
軽油2.62 kg-CO₂/Lトラック・フォークリフト・ディーゼル車
揮発油(ガソリン)2.29 kg-CO₂/L乗用社用車・軽トラック
LPG2.99 kg-CO₂/kgフォークリフト・給湯
都市ガス2.09 kg-CO₂/m³ボイラー・加熱炉

※都市ガスの排出係数はガス会社・供給区域によって異なる(上記は代表的な値)。正確な数字は契約しているガス会社の公表値を確認してほしい。

例:
ボイラー用に年間2,000Lの灯油を使う工場

2,000 L × 2.50 = 5,000 kg = 5.0 t-CO₂/年

ボイラーも社用車も持っていない工場なら、Scope1は「0 t-CO₂」として記入して問題ない。


調査票の空欄を埋める

数字が出たら調査票に記入する。
迷いやすいポイントを整理する。

「単位がt-CO₂か、kg-CO₂か」を確認する
調査票によってはt-CO₂(トン)で求めているものと、kg-CO₂で求めているものが混在する。計算した数字の単位を合わせること。1 t = 1,000 kg

「基準年度はいつか」を確認する
前年度(2025年度)の実績を求めているケースが多いが、「直近12ヶ月」と書かれていることも
ある。調査票の指示に従う。

「電力使用量と排出量が別欄になっているか」を確認する
電力使用量(kWh)と排出量(t-CO₂)は別の
データだ。両方を求める調査票もあれば、
排出量だけの調査票もある。


「削減計画」欄——
取り組みの姿勢を伝える機会として使う

数値を記入する欄はここまでで埋まる。残るのは、数字では表せない「削減計画」欄だ。

削減計画の欄は、記入任意としている取引先も
多い。ただし、現状の取り組みや今後の意向を
ひとこと書いておくだけで、取引先に「Scope3
削減を一緒に進められるパートナー」という印象を残せる。まだ検討を始めたばかりの段階でも構わない。

検討を始めたばかりの場合

「2026年度中に省エネ診断を実施し、電力使用量とCO₂排出量の実態を把握した上で削減目標を策定する予定。」

具体策を検討している場合

「工場屋根への太陽光PPA(電力購入契約)
導入を検討中。2027年度着手を目指し、
事業者との協議を進めている。Scope2
排出量の20%削減を
目標に設定する予定。」

すでに施策を実行している場合

「2026年○月に自家消費型太陽光○kWを
設置済み。年間Scope2排出量を現状比○%
削減見込み。」

まとめ

CO₂排出量の計算に専門知識は必要ない。
手順をまとめると:

  1. 電気代の明細・ポータルを開く → CO₂排出量の
    記載があればそのまま使える
  2. 記載がない場合は年間電力使用量(kWh)を
    合計する
  3. 電力会社の排出係数(環境省公表値)を確認して掛ける → Scope2完了
  4. ボイラー・社用車などの燃料使用量があれば
    同様に計算 → Scope1完了
  5. 削減計画欄は取り組みの意欲を伝える機会として活用する

計算した数字を手元に置いたまま
調査票を開けば、あとは項目を埋めるだけだ。

一度この手順を確立しておけば、翌年度以降は電力使用量・燃料使用量の数字を最新のものに差し替えるだけで済む。排出係数を毎回調べ直す必要はなく、記入までの時間は初回よりも大きく短縮できる。

CO₂排出量の計算で迷ったら、
数字を添えてそのまま相談してください。

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