「削減計画書を提出してほしい」——取引先からそう言われた。様式は特に指定なし。何をどの順番で書けばいいのか、どこまで書けば十分なのか。調べてもひな形が見当たらない。この記事では、製造業の中小サプライヤーが取引先に提出する削減計画書を、5つの構成要素ごとに具体的な記入例とともに解説する。
「完璧な数字がなければ書けない」と思う必要はない。取引先が求めているのは精度より「方向性と本気度」だ。
削減計画書が求められる背景
取引先が削減計画書を求める理由は主に3つある。
- Scope3の開示義務:大手メーカーはESG投資家や欧州規制(CSRD)から、サプライチェーン全体のCO₂排出量(Scope3)の把握・削減を求められている。サプライヤーの取り組みを束ねて報告するため、個社の計画書が必要になる。
- SBT・RE100などの目標対応:2030年・2050年の削減目標を宣言している大手企業は、目標達成の手段としてサプライヤーエンゲージメントを進めている。「何%削減できるか」を数値で示してほしいという要求が増えている。
- 取引条件の確認:脱炭素への取り組みが取引継続の評価項目になりつつある。計画書がある企業とない企業では、更新時の印象が変わり始めている。
いずれの場合も、取引先が求めているのは「脱炭素を本気で考えているか」という姿勢の確認だ。現時点の数字が不完全でも、「いつまでに・何をするか」が示せれば評価される。
削減計画書の5つの構成要素
様式の指定がない場合、以下の5要素を順番に書けば取引先が必要とする情報をほぼカバーできる。
自社の現在のCO₂排出量を示す。Scope1(自社の燃料燃焼)とScope2(購入電力)を分けて記載するのが基本だ。
電気代明細から過去12ヶ月の電力使用量(kWh)を合計し、環境省が公表する電力会社別の排出係数を掛ければScope2の排出量が出る。計算の詳細は 「CO₂排出量の出し方と答え方」 を参照。
Scope1(ガス・重油等):約 ○○ t-CO₂
Scope2(購入電力):約 ○○ t-CO₂
※環境省 令和6年度 電力会社別排出係数(○○電力:0.○○ kg-CO₂/kWh)を使用
目標年と削減率を明示する。取引先の目標(例:2030年に30%削減)に合わせて設定すると整合性が取れて評価されやすい。ただし根拠のない数字を書く必要はなく、「○年度比○%削減を目指す」という方向性で十分だ。
中間目標:2027年度までに 15% 削減
目標を達成するための具体的な施策を列挙する。「検討中」でも記載してよい。複数の手段を組み合わせる形が一般的だ。
② 太陽光発電の導入(2027年度・SII補助金申請予定):約10% 削減見込み
③ 産業用蓄電池(BESS)の導入によるピークカット・再エネ活用(2028年度):約8% 削減見込み
④ 再生可能エネルギー電力メニューへの切り替え(検討中):~7% 削減見込み
蓄電池(BESS)を施策に入れる場合、「ピークカットによる電力使用量削減」と「余剰再エネの自家消費最大化」の両面で効果が説明できる。SII補助金(CAPEX1/3補助)の活用も計画に含めると投資計画の現実感が増す。
施策ごとに着手・完了の時期を示す。年度単位でよい。「検討→設計→工事→稼働」の流れを示せると具体性が増す。
2027年度:SII補助金申請(春公募)、太陽光工事着工・完了
2028年度:蓄電池導入・稼働開始
2030年度:目標達成確認・次期計画策定
金額の詳細開示は必須ではない。「補助金を活用して段階的に進める計画」という方針と、おおよその規模感を示せば十分だ。
よくある失敗パターン3つ
提出前に確認したい3点
- 要求された様式・項目はあるか:取引先によっては独自フォーマットや記入すべき項目が指定されていることがある。まず要求内容を確認してから書き始める。
- 「絶対量削減」か「原単位削減」かの確認:両者では達成難易度が異なる。曖昧な場合は確認しておく。
- 提出後のフォローを想定しているか:計画書は一度出して終わりではなく、翌年以降の進捗確認が来る場合がある。実施できた施策・できなかった施策の理由を記録しておくと次回の更新がスムーズだ。
削減計画書の完成度より「動き始めている」という事実が評価される。現状把握・目標・手段・時期の4点がそろっていれば、今日から提出できる内容は作れる。
公式資料・ツール
この記事の内容をさらに深掘りしたい方、公式の様式や算定方法を確認したい方向けに、環境省・商工会議所が公開している無償リソースをまとめた。
Scope1・2・3の算定方法を網羅した公式基準書。2025年3月改訂版。取引先が「GHGプロトコル準拠で」と指定してきた場合の対応基準としても使える。
中小企業が「知る→測る→減らす」の3ステップで脱炭素経営に取り組むための手引き。中長期削減計画の策定手順が具体的に解説されており、取引先提出用の計画書作成の参考になる。
電力・ガス・燃料の使用量を入力するだけでCO₂排出量が自動計算されるExcelツール。現状把握(要素①)の数値を揃えるのに最短で使える。商工会議所会員でなくても無料でダウンロードできる。