「年間の電力使用量と、CO₂排出量を記入してください」——調査票に書かれたその一行を見て、手が止まった。電気代の明細は毎月見ているが、「CO₂排出量」を計算したことはない。どこから手をつければいいかわからない。

実は、Scope2(電力由来のCO₂)の計算は単純な掛け算1本だ。電力使用量(kWh)に「排出係数」を掛けるだけで出る。必要なデータはすでに手元にある可能性が高い。この記事では、調査票を受け取った中小製造業が1〜2時間で回答の数字を出せるよう、手順を整理する。


調査票は何を聞いているのか

取引先から届く脱炭素調査票の多くは、以下の項目で構成されている。

質問項目 何を準備するか
年間電力使用量(kWh) 電気代明細に記載のkWh(12ヶ月分の合計)
CO₂排出量(Scope2、t-CO₂) 明細に記載がある場合はそのまま使用可。なければ電力使用量 × 排出係数で計算
CO₂排出量(Scope1、t-CO₂) 燃料使用量 × 燃料別排出係数で計算
再生可能エネルギー比率(%) 現状「0%」でも正直に記入できる
削減目標・計画 「検討中」でも記入できる(欄の使い方は後述)

まず手元の調査票を確認して「どの欄が埋まっていないか」を把握することが出発点だ。


Scope2の計算——電力由来のCO₂

Scope2とは、購入した電力に伴う間接排出量のこと。中小製造業の多くにとって、排出量の大半(80〜90%)がここに集中する。

Scope2排出量(kg/年)= 電力使用量(kWh/年)× 排出係数(kg-CO₂/kWh)
STEP 1

まず電気代の明細・ポータルを確認する

大手電力会社(東北電力・東京電力など)のWebポータルでダウンロードできる月次明細や年次利用レポートには、CO₂排出量(kg)が記載されている場合がある。記載があればそのまま調査票に転記できる。

ただし、明細に記載されているCO₂量が「調整後排出係数」ベースか「基礎排出係数」ベースかによって数字が変わる。取引先への報告には調整後排出係数を使うのが一般的なため、明細の注記を確認してから使う。新電力のプランは明細にCO₂量の記載がないことが多い。その場合はSTEP 2へ。

STEP 2

電力使用量の合計を出す(明細にCO₂記載がない場合)

電気代明細の「電力使用量(kWh)」を12ヶ月分合計する。明細が手元にない場合は、電力会社のWebポータルでダウンロードできる(過去24ヶ月分が多い)。それも難しければ、直近1ヶ月のkWhを12倍して概算を出す。

STEP 3

排出係数を調べる

排出係数は電力会社・プランによって異なる。環境省が毎年「電気事業者別排出係数」として公表している。

電力会社 調整後排出係数(2023年度・令和5年度)
東北電力0.402 kg-CO₂/kWh
東京電力エナジーパートナー0.441 kg-CO₂/kWh
関西電力0.285 kg-CO₂/kWh
九州電力0.317 kg-CO₂/kWh

出典:環境省 令和5年度排出係数(毎年9〜10月頃に前年度分が公表される)。上記以外の電力会社・新電力の係数は環境省公表の一覧で確認できる。

STEP 4

掛け算する

例:年間150,000kWhを使う工場(東北電力管内)の場合
150,000 kWh × 0.402 kg-CO₂/kWh = 60,300 kg = 60.3 t-CO₂/年
→ この数字が調査票の「Scope2排出量」欄に入る。

Scope1の計算——燃料由来のCO₂

Scope1とは、自社が燃料を直接燃やすことで出るCO₂のこと。製造業の現場では次のようなケースが対象になる。

Scope1排出量(kg/年)= 燃料使用量(L・kg・Nm³)× 燃料別排出係数
燃料 排出係数 主な用途
灯油2.49 kg-CO₂/Lボイラー・暖房
A重油2.71 kg-CO₂/L大型ボイラー・工業炉
軽油2.58 kg-CO₂/Lトラック・フォークリフト・ディーゼル車
ガソリン2.32 kg-CO₂/L乗用社用車・軽トラック
LPG3.00 kg-CO₂/kgフォークリフト・給湯
都市ガス(13A)2.23 kg-CO₂/Nm³ボイラー・加熱炉
例:ボイラー用に年間2,000Lの灯油を使う工場
2,000 L × 2.49 = 4,980 kg ≈ 5.0 t-CO₂/年

ボイラーも社用車も持っていない工場なら、Scope1は「0 t-CO₂」として記入して問題ない。


調査票の空欄を埋める

数字が出たら調査票に記入する。迷いやすいポイントを整理する。

「単位がt-CO₂か、kg-CO₂か」を確認する
調査票によってはt-CO₂(トン)で求めているものと、kg-CO₂で求めているものが混在する。計算した数字の単位を合わせること。1 t = 1,000 kg。

「基準年度はいつか」を確認する
前年度(2025年度)の実績を求めているケースが多いが、「直近12ヶ月」と書かれていることもある。調査票の指示に従う。

「電力使用量と排出量が別欄になっているか」を確認する
電力使用量(kWh)と排出量(t-CO₂)は別のデータだ。両方を求める調査票もあれば、排出量だけの調査票もある。


「削減計画」欄——取り組みの姿勢を伝える機会として使う

削減計画の欄は、記入任意としている取引先も多い。ただし、現状の取り組みや今後の意向をひとこと書いておくだけで、取引先に「Scope3削減を一緒に進められるパートナー」という印象を残せる。できる範囲で、できる限り書くことをすすめる。

検討を始めたばかりの場合

「2026年度中に省エネ診断を実施し、電力使用量とCO₂排出量の実態を把握した上で削減目標を策定する予定。」

具体策を検討している場合

「工場屋根への太陽光PPA導入を検討中。2027年度着手を目指し、事業者との協議を進めている。Scope2排出量の20%削減を目標に設定する予定。」

すでに施策を実行している場合

「2026年○月に自家消費型太陽光○kWを設置済み。年間Scope2排出量を現状比○%削減見込み。」

まとめ

CO₂排出量の計算に専門知識は必要ない。手順をまとめると:

  1. 電気代の明細・ポータルを開く → CO₂量の記載があればそのまま使える
  2. 記載がない場合は年間電力使用量(kWh)を合計する
  3. 電力会社の排出係数(環境省公表値)を確認して掛ける → Scope2完了
  4. ボイラー・社用車などの燃料使用量があれば同様に計算 → Scope1完了
  5. 削減計画欄は取り組みの意欲を伝える機会として活用する

これで調査票の回答は出揃う。