日経新聞に省エネ法改正の記事が出ていた。月の電気代が1,000万円を超えるような大手メーカーが対象で、再生可能エネルギーへの転換計画を策定して国に報告する義務が生じるという。「大手の話だ」と思いながら紙面を閉じた。その数週間後、取引先から1通のメールが届いた。「サプライヤー脱炭素対応状況のご確認について」——。
この記事では、なぜ省エネ法の義務が「対象外のはずの中小製造業」に届くのか、そして今年中に何をすべきかを整理する。
2022年省エネ法改正で何が変わったか
2022年(令和4年)の省エネ法改正で、年間エネルギー使用量が原油換算1,500kL以上——電気代に換算すると月1,000万円前後以上の規模——の「特定事業者」(全国約1.2万社)に、新たな義務が加わった。
非化石エネルギー転換計画の策定・報告
エネルギーの非化石化(再生可能エネルギーや電化など)に向けた中長期計画を策定し、国への定期報告書に記載することが義務化された。2023年度から段階的に施行されており、2026年度には対象企業の大半が報告サイクルに入る。
アイシン、パナソニック、住友電工——中小製造業のサプライヤーが部品を納めている大手メーカーは、いずれもこの特定事業者に該当する規模だ。
大手の義務が中小に届くメカニズム
特定事業者が非化石化を求められるのは、あくまで自社のエネルギー消費だ。では、なぜそれが中小製造業に関係するのか。
Scope3目標と連動しているからだ。
大手メーカーは省エネ法の義務に加えて、投資家・顧客・ESG評価機関からScope3削減目標(サプライチェーン全体のCO₂削減)の開示を求められている。Scope3のカテゴリ1(購入した製品・サービス)は、部品を納めるサプライヤーの排出量がそのまま乗ってくる。
大手が「2030年にScope3を30%削減」と宣言したとき、その達成手段のひとつがサプライヤーへの脱炭素要請だ。法的な義務ではないが、取引継続の条件として機能し始めている。省エネ法の義務化が大手の行動を加速させ、その圧力がサプライチェーンを下に流れてくる——これが現在起きている構造だ。
2026年に何が変わるのか
2026年度は、この圧力が目に見えて強まる節目になる。大手が動かざるを得ないイベントが5つ重なるためだ。
2023年度以降に策定された非化石転換計画の初期報告期限が2026年度前後に集中している。「達成状況」を示さなければならないため、大手はサプライヤーへの働きかけを強める動きに出やすい。
CBAMの移行期間は2025年末に終了し、2026年から証書購入義務フェーズが本格化した。欧州向けに輸出している大手日本メーカーにとって、サプライヤーのCO₂排出量は直接コストに関わる問題になる。
2024年からEU大企業への適用が始まったCSRDは、2026年から中堅企業にも拡大される。欧州事業を持つ日本の大手メーカーがグローバルサプライチェーン全体のScope3把握を義務付けられ、Tier2・Tier3への調査票が急増する。
SBT認定を取得した大手は5年ごとに目標を更新・強化する必要がある。2021年前後に認定を取得した企業が2026年に更新時期を迎え、目標が厳しくなるほどサプライヤーへの要求も上がる。
2026年4月にGX-ETSが本格施行され、対象は省エネ法と同じ特定事業者。大手が排出権を購入するより「サプライヤーに削減させる」ほうがコストを抑えられる局面が生まれ、Tier2・Tier3への削減要請が新たな動機を得る。
中小製造業がいま取るべき3つのアクション
大手の義務化を待って動くのではなく、先に動いておくことで交渉力と選択肢が広がる。
まず「現在どこにいるか」を数字にすること。電気代明細から12ヶ月分の電力使用量(kWh)を集め、排出係数を掛ければScope2排出量が出る。この数字が、取引先への回答書・削減計画書の出発点になる。計算方法はこちら → 「CO₂排出量の出し方と答え方」
電力会社の切り替え、太陽光PPA、自家消費型BESS——いずれも「再エネ比率を上げる」という文脈で取引先に説明できる打ち手だ。「現在PPAを導入中で〇〇年度に〇〇%を見込む」と答えられるかどうかで印象が大きく変わる。
SII補助金(蓄電池CAPEXの1/3補助)の申請にはアグリゲーター選定・交渉(1〜2ヶ月)→ DR参加設計・設備見積もり(1〜2ヶ月)→ 申請書作成(1ヶ月)と、最低4〜5ヶ月のリードタイムがかかる。
来年度(R8・2027年3月頃開始予定)の公募を目標に、今動き始めることが最短経路だ。準備期間が長いほど、アグリゲーターとの手数料交渉で有利な条件が引き出せ、設備業者を複数比較してコストを削れる。設備が稼働し始める日が1日早まれば、電気代の削減もその分だけ早く始まる——年間削減効果が300万円なら、1ヶ月の差は25万円だ。
まとめ
省エネ法の義務は今のところ大手にしか届いていない。だが「義務が届く企業」が脱炭素を本格化させるほど、「義務が届かない企業(中小サプライヤー)」への圧力は強まる。2026年はその力学が一気に加速する年だ。
早く動くほど補助金が使いやすく、取引先への印象も良く、コスト削減の恩恵も長く受けられる。