「系統用蓄電池は利回り30%超え」——太陽光FIT(固定価格買取制度)の終焉を受け、次の投資先として蓄電池が注目されるなか、こうした広告が急増している。数字は本当か。BSRIでは、2026年9月時点の最新条件(補助金の対象要件・需給調整市場の上限価格引き下げ・蓄電池の参入増による落札率の低下)を反映した独自IRR(内部収益率)試算を行った。結論は明快だ:現在の市場環境で30%は成立しない。

【本記事の対象範囲】本記事の試算は低圧BESS(50kW未満)を電力系統に直接つなぎ、市場取引で収益を得る形態を前提とする。高圧・MW級の系統用蓄電池や、工場・ビルの構内に設置して電気代削減を主目的とする需要家型の蓄電池は、補助金の対象要件も収益構造も異なる。(詳細は各セクションの注記を参照)
広告で「利回り30%超え」が謳われる完成渡し案件は高圧・MW級規模が多いため、本記事の試算値と直接比較する際は規模と設置形態の前提の確認が必要だ。

アグリゲーター(Ag)とは:複数の小規模な蓄電池・発電設備をまとめ(束ね)、需給調整市場・容量市場に一括して入札する事業者。低圧BESS(49.9kW未満)は単独では市場参加の最低入札量(1MW以上)を満たせないため、アグリゲーター経由での参加が前提となる。手数料は収益の10〜30%程度と幅がある。


「利回り30%超え」に隠された3つの前提

広告で使われる高IRRの数字には、多くの場合、明示されない前提が3つある。

前提① 対象にならない補助金を収支に入れている

産業用蓄電池の主要な補助金である「業務産業用蓄電システム導入支援事業」[1]は補助率1/3以内だが、公募要領は対象設備を「高圧以上の需要側(工場、ビル等)に設置される設備」[2]と定めている。電力系統に直接つなぐ蓄電所は別事業(系統用蓄電池等電力貯蔵システム導入支援事業)に振り分けられ、こちらは最大受電電力1,000kW以上[3]が要件だ。つまり、低圧(50kW未満)で系統に直結し、市場取引だけで収益を得る蓄電所は、どちらの補助金の対象にもならない。補助金を差し引いた収支が示されている場合は、その設置形態で本当に対象になるのかを公募要領で確認する必要がある。

高圧・MW級の場合:最大受電電力1,000kW以上の系統用蓄電池は、系統用蓄電池等電力貯蔵システム導入支援事業の対象になり得る。「30%超え」の試算がMW級の高圧案件を前提にしているなら、補助金の前提自体は成り立つ可能性がある。ただし需給調整市場の単価低下(前提②)の影響は高圧案件でも同様に受ける。

前提② 需給調整市場の高い単価が20年続く前提になっている

需給調整市場の入札上限単価は、2026年3月に19.51円 → 15円/ΔkW・30分[4]へ、2026年9月1日には一次調整力・二次調整力①・複合商品で10円[5]へ引き下げられた。さらに、蓄電池の参入が増えたエリアでは落札率そのものが下がっている。(後述)
上限価格に近い単価で全コマ落札できる状態が20年間続くという前提は、すでに実績と合わなくなっている。

前提③ 運用にかかるコストを計上していない

蓄電池設備は固定資産税の課税対象であり、充電には託送料金と発電側課金が、常時並列運転には待機電力がかかる。リチウムイオン電池は年1〜2%ずつ容量が低下し、PCSは12〜15年目に交換が必要になる。低圧の蓄電池はアグリゲーター[6]を経由して市場参加するため、収益の10〜30%が手数料として差し引かれる。最終年度には撤去・廃棄の費用も発生する。これらを省略した試算は楽観的すぎる。


実態に近いIRRを計算する

BSRIが東北エリアの低圧BESS(49.9kW・200kWh)を対象に、2026年9月時点の条件で試算した結果を示す。系統に直結して市場取引で収益を得る形態を想定し、前提条件は以下の通りとした。

項目 数値 備考
総投資 2,200万円 機器・設置工事1,850万円+系統連系・消防・外構等350万円。土地は自己所有
補助金 0円 低圧で系統に直結する蓄電所は、業務産業用・系統用のいずれの補助金も対象外(前提①)
自己資本/融資 660万円/1,540万円 融資比率70%
融資返済(年利3.8%・20年) 約111万円/年 日本政策金融公庫の2026年9月時点の利率水準を参考に設定
需給調整市場(一次調整力オフライン枠)の期待単価 1年目5.0円 → 6年目以降2.5円/ΔkW・30分 平均落札価格×落札率。標準シナリオ。供出46kW・実効稼働率93%
容量市場収入 50万円/年 東北エリアの直近の約定価格(約1.5万円/kW)[7]にアグリゲーター経由の取り分を考慮
アグリゲーター手数料 収益の20%
運用コスト 105万円/年 保守・保険・通信32万円+充電側の託送料金等20万円+待機電力17万円+電気主任技術者の外部委託36万円
PCS交換 13年目に200万円
固定資産税 耐用年数17年で年次計上 20年累計で約190万円
電池劣化 年1.5%の線形低下(LFP) 容量に比例する収益に反映
廃棄・撤去費用 総投資の5%を最終年度に計上

試算結果(3シナリオ)

シナリオ 想定条件(期待単価の推移) 自己資本IRR 20年間の累計収支 判定
楽観 8.0円→4.0円(東日本の参入増が緩やかに進む) 約16% 約+520万円 成立
標準 5.0円→2.5円(西日本と同じ経路で単価が下がる) 算出不能 約▲1,320万円(元本を回収できない) 非成立
保守 3.0円→1.0円(供給過剰が定着する) 算出不能 約▲3,090万円 非成立
「利回り30%超え」は、高い単価が長く続く前提でしか成立しない。BSRIの標準シナリオでは20年間で投資元本を回収できず、全額を自己資金で賄った場合のプロジェクトIRRも▲4.4%にとどまる。楽観シナリオの約16%も、単価が8円から始まり緩やかにしか下がらないことが条件だ。稼働開始の時点で市場がどの段階にあるかによって、結果は大きく分かれる。

※上記は融資利用後の自己資本IRR(エクイティIRR)であり、アグリゲーター手数料・O&M料・保険料・固定資産税・廃棄費用に加え、充電側の託送料金等・待機電力・電気主任技術者の外部委託費・PCS交換費用・法人税を差し引いた後の手残りベースで算出している。土地を賃借する場合は年36〜48万円程度の賃料がさらに必要だ。試算は将来の収益を保証するものではない。

IRR(内部収益率)とは:投資から得られるすべての将来キャッシュフローを現在価値に割り引いたとき、正味現在価値(NPV)がゼロになる割引率のこと。「この投資が実質何%の利回りに相当するか」を示す指標。単純な年間収益÷投資額の「表面利回り」とは異なり、投資回収期間・融資条件・税負担を含む時系列全体で評価する。


見落としがちな5つのコスト

多くの利回り広告が省略しているのが、以下の5項目だ。これらを正しく計上すると、IRRは大きく変わる。

① 固定資産税(償却資産税)

蓄電池設備は固定資産税の課税対象となる。系統に直結して市場取引に使う蓄電池は、機械装置(耐用年数17年)として扱われるとの見解が業界団体から示されており、税額は緩やかにしか減らない。BSRIの試算では20年間の累計で約190万円になる。

② 充電側の料金と待機電力

系統から充電する蓄電池には、託送料金と発電側課金がかかる。充電した電気のうち損失分にだけ託送料金を課す特例措置[8]を申請すれば年十数万円に収まるが、申請しないと託送基本料金だけで年40万円を超える。加えて、一次調整力は蓄電池を常時系統に並列しておく必要があり、PCS(パワーコンディショナー)や温度管理の待機電力が年10〜30万円発生する。

③ 電池劣化とPCSの交換

リチウムイオン電池は使用とともに容量が低下し、充放電で稼ぐ収益(卸電力市場の値差など)は後半に目減りする。需給調整市場の対価は出力(kW)に対して支払われるため容量低下の影響を受けにくいが、24時間運転を続けるPCSは12〜15年目に交換が必要になり、150〜300万円の支出が発生する。

④ 電気主任技術者の外部委託費

低圧(50kW未満)であっても、蓄電所は太陽光のような小規模事業用電気工作物の特例の対象ではなく、事業用電気工作物として保安規程の届出と電気主任技術者による保安管理が必要になる。外部委託を利用する場合でも年24〜36万円程度の費用が継続的に発生する。

⑤ アグリゲーター手数料

低圧の蓄電池は、容量市場・需給調整市場への参加にアグリゲーターが必要になる。手数料は収益の10〜30%と幅があり、非公開のケースも多い。料率だけでなく、市場でペナルティが発生した場合の負担区分も契約前に必ず開示を求めるべき項目だ。


GXオークションは小規模案件では参加できない

「GXオークション(長期脱炭素電源オークション)に参加すれば収益が大幅に増える」という説明を営業から受けることがある。GXオークションの入札単価(第一回:約82,200円/kW)は確かに魅力的だが、最低応札容量は3万kW(30MW)[9]であり、個人・中小企業が保有する小規模BESSでは参加できない。

低圧BESS(49.9kW)の収益計算にGXオークションを含めるのは制度上誤りだ。BSRIでは、IRRモデルからGXオークションを除外した上で収益を計算している。

GXオークション(長期脱炭素電源オークション)とは:経済産業省が2023年度から運用を開始した、再エネ・蓄電池など脱炭素電源に対して20年間の収益保証を与える入札制度。落札した事業者は容量市場とは別に長期固定収入を得られる。ただし最低応札容量は3万kW(30MW)であり、大型プロジェクト向けの制度。低圧BESSが個別に参加する仕組みではない。


2026年の構造変化:収益モデルはさらに厳しくなっている

IRRの試算条件は静的ではない。2026年に入り、3つの重要な変化が起きている。

① 需給調整市場の上限価格は半年で2回下がった

一次調整力・二次調整力①・複合商品の上限価格は、2026年3月に19.51円から15円へ、2026年9月1日には10円/ΔkW・30分へ[5]引き下げられた。審議会では「競争環境が整わない場合は7.21円まで段階的に下げる」方針[4]が示されており、この方針は現在も取り下げられていない。

② 参入の増加で「応札すれば落札できる」時期が終わりつつある

上限価格より影響が大きいのが、蓄電池の参入増による落札率の低下だ。BSRIが電力需給調整力取引所(EPRX)の取引実績[10]を集計したところ、西日本(60Hzエリア)の一次調整力オフライン枠の期待単価(平均落札価格×落札率)は、2026年2月の約17.7円から7月には約4.6円まで下がった。応札量が必要量を上回ったためだ。東日本(東北・東京)でも、一次調整力全体の応札量は必要量に対して4月の41%から7月には87%まで増えており、同じ経路をたどる可能性が高い。

③ 前日市場への移行

2026年3月から、需給調整市場は前日入札方式[11]に移行した。従来の週間調達から翌日分を前日に入札する形になり、市場単価を見ながら柔軟に運用する「マルチユース」戦略には、複数収益源の組み合わせを前提とした精緻な運用設計が必要になった。個人・中小企業が単独で対応するには高いハードルがある。

「高利回りの時代」は上限価格19.51円・応札すればほぼ落札できた時代の話だ。2026年9月現在、上限価格は10円、参入増で落札率も下がり始めている。低圧で系統に直結する蓄電所には補助金も使えない。この条件で20年間のIRRを計算すると、BSRIの標準シナリオでは投資元本を回収できない。


それでも「蓄電池投資」が成立するケースとは

標準シナリオで元本を回収できないという結果は、蓄電池投資がすべて成立しないという意味ではない。以下の条件が揃う案件では収益性が変わる。

「市場収益だけで利回りを成立させる」モデル一本に頼らず、立地・周辺需要家環境・設備規模に合わせた収益の組み合わせを探ることが、2026年以降の蓄電池投資で安定性を高める鍵になる。提案書を受け取ったら、単価が20年間変わらない前提になっていないか、補助金の対象要件を満たす設置形態か、充電側の料金やPCS交換費が入っているかを確認したい。

需給調整市場の制度設計・単価見直し等に関するOCCTOの公式ページ。入札上限単価は2026年3月に19.51円から15円へ、9月には10円まで引き下げられた経緯や、今後7.21円まで段階的に下がる可能性がある方針も確認できる。

工場・ビルなど高圧以上の需要側に設置する産業用BESSへの主要補助金。現行(令和7年度補正)の補助率・設置要件・公募スケジュールを確認できる。補助金を収支に入れる前に、設置形態が対象要件を満たすかを必ず最新版で確認する。

業務産業用蓄電システム導入支援事業の申請に必要なアグリゲーター(SII登録)の一覧。低圧BESSは単独で市場参加できないため、この一覧から契約先を選ぶ。手数料・条件は各社への問い合わせが必要だが、候補リストとして利用できる。

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参考文献

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  1. SII 一般社団法人環境共創イニシアチブ「令和7年度補正 業務産業用蓄電システム導入支援事業 公募情報」https://sii.or.jp/DRchikudenchi_gyousan07r/public.html
  2. SII 一般社団法人環境共創イニシアチブ「令和7年度補正 業務産業用蓄電システム導入支援事業 公募要領」https://sii.or.jp/DRchikudenchi_gyousan07r/uploads/gyousan07r_kouboyouryou.pdf(PDF内で「需要側」と検索すると該当箇所に移動できます)
  3. SII 一般社団法人環境共創イニシアチブ「令和7年度 再生可能エネルギー導入拡大・系統用蓄電池等電力貯蔵システム導入支援事業費補助金 公募要領」(2025年8月)https://sii.or.jp/chikudenchi07/uploads/R7kess_kouboyouryou.pdf(PDF内で「最大受電電力が1,000kW以上」と検索すると該当箇所に移動できます)
  4. 資源エネルギー庁「需給調整市場について」(第110回制度検討作業部会 2026年1月23日)https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/system_review/pdf/110_04_00.pdf(PDF内で「19.51」と検索すると該当箇所に移動できます)
  5. 電力需給調整力取引所(EPRX)「ΔkW上限価格の更新について」(2026年7月30日)https://www.eprx.or.jp/j_information/docs/202607300000_news.pdf
  6. SII 一般社団法人環境共創イニシアチブ「蓄電池アグリゲーター一覧(令和7年度補正)」https://sii.or.jp/DRchikudenchi_gyousan07r/aggregator_list.html
  7. 電力広域的運営推進機関(OCCTO)「容量市場 オークション情報・結果」https://www.occto.or.jp/capacity-market/yoryoshijyo/main/data/
  8. 資源エネルギー庁「蓄電池への電気の供給の在り方について」(2023年12月26日・資料4)https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/068_04_00.pdf
  9. 経済産業省「長期脱炭素電源オークションガイドライン」(2025年8月27日改定)https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulations/choukigl_20250827.pdf
  10. 電力需給調整力取引所(EPRX)「取引実績」(商品別・エリア別の募集量・応札量・落札量・落札価格。本記事の期待単価・充足率はBSRIが集計)https://www.eprx.or.jp/information/results.php
  11. 北陸電力送配電「需給調整市場について」(2026年度以降の全商品前日取引化)https://www.rikuden.co.jp/nw_jyukyuchousei/