「系統用蓄電池は利回り30%超え」——太陽光FITの終焉を受け、次の投資先として蓄電池が注目されるなか、こうした広告が急増している。数字は本当か。BSRIでは、2026年の最新条件(SII補助率の変更・需給調整市場の単価引き下げ)を反映した独自IRR試算を行った。結論は明快だ:現在の市場環境で30%は成立しない。

【本記事の対象範囲】本記事の試算は低圧BESS(50kW未満・単体申請)を前提とする。高圧案件(500kW以上)や複数施設をアグリゲーター経由で束ねて10MW(10,000kW)以上として申請するケースでは、補助率・連系条件が異なる(詳細は各セクションの注記を参照)。広告で「利回り30%超え」が謳われる完成渡し案件は、このような高圧・MW級規模が多いため、本記事の試算値と直接比較する際は規模の前提の確認が必要だ。

アグリゲーターとは:複数の小規模な蓄電池・発電設備をまとめ(束ね)、需給調整市場・容量市場に一括して入札する事業者。低圧BESS(49.9kW未満)は単独では市場参加の最低入札量(1MW以上)を満たせないため、アグリゲーター経由での参加が前提となる。手数料は収益の20〜30%程度。SII補助金を受けるにはSII指定のアグリゲーターと契約することが要件。


「利回り30%超え」に隠された3つの前提

広告で使われる高IRRの数字には、多くの場合、明示されない前提が3つある。

前提① 実際より有利な補助率(CAPEX×1/2以内)を使っている

2025年度以前のSII補助金[1]は「業務産業用蓄電システム」へのCAPEX最大1/2補助だった。令和7年度補正では低圧・単体申請の補助率が1/3以内に変更されており、自己資本は約100万円増加する。市場に流通している「30%超え」の試算の多くは1/2レートをもとにしており、低圧・単体申請には当てはまらない。

高圧・MW級の束ね申請の場合:アグリゲーター経由で複数施設を合算し10MW(10,000kW)以上として申請する場合、令和7年度補正においても1/2以内補助が維持されるケースがある。「30%超え」の試算がMW級の高圧案件を前提にしているなら補助率自体は旧条件と同等の可能性がある。ただし需給調整市場の単価引き下げ(前提②)の影響は高圧案件でも同様に受ける。

前提② 需給調整市場の楽観単価(引き下げ前)を使っている

2026年1月、資源エネルギー庁は需給調整市場の入札上限単価を19.51円 → 15円/ΔkW・30分に引き下げる方針を審議会で示した[2]。さらに競争環境が整わない場合は10円、7.21円まで段階的に引き下げる方針も示されている。高IRRを謳う試算の多くは旧上限価格のままであり、現在の条件とは乖離がある。

前提③ 固定資産税・電池劣化・アグリゲーター手数料を計上していない

蓄電池設備は固定資産税の課税対象(耐用年数6年)であり、取得後数年間は年20万円前後の負担が発生する。加えて、リチウムイオン電池は10年で容量が10〜20%低下し、後半の収益が目減りする。低圧BESSはアグリゲーター[3]を経由して市場参加するため、収益の20〜30%が手数料として差し引かれる。これらを省略した試算は楽観的すぎる。


実態に近いIRRを計算する

BSRIが東北エリアの低圧BESS(49.9kW・200kWh)を対象に試算した結果を示す。前提条件は以下の通り。

項目 数値 備考
CAPEX(機器・工事・土地込み) 1,700万円
SII補助金(CAPEX×1/3以内) △567万円 低圧・単体申請の場合。高圧・MW級の束ね申請(合算10MW〈10,000kW〉以上)では1/2以内が維持されるケースあり
中小企業経営強化税制(税額控除) △170万円相当
実質自己資本 約289万円 旧レートなら約189万円
融資(自己負担の70%) 約674万円
融資返済(年利2%・20年) 約41万円/年
容量市場単価(東北エリア) 4,000円/kW/年
需給調整市場単価(想定) 9円/kWh 上限引き下げ後の現実的な水準
アグリゲーター手数料 25% SII補助金の申請要件でもある
OPEX CAPEX×1.5%/年
電池劣化 10年後に容量15%低下
固定資産税 耐用年数6年で年次計上

試算結果(3シナリオ)

シナリオ 想定条件 自己資本IRR 回収年数
楽観 市場単価が現水準を維持 約4〜5% 約12〜13年
中庸 単価が10%低下 約1〜2% 20年超
悲観 単価が20%低下 ≒0%以下 回収困難
「利回り30%超え」は低圧・単体申請(CAPEX×1/3以内)では成立しない。楽観シナリオでも自己資本IRRは4〜5%程度にとどまる。高圧・MW級の束ね申請(CAPEX×1/2以内)では補助額が増える分、投資規模も大きくなり、需給調整市場単価15円水準でも30%超えは依然として困難だ。補助率の前提を問わず、市場価格の引き下げ(前提②)が収益の上限を押し下げている点は共通している。

※上記IRRはアグリゲーター手数料・O&M料(OPEX)・固定資産税を差し引いた後の手残りベースで算出している。保険料が発生する場合はさらに控除が必要だ。

IRR(内部収益率)とは:投資から得られるすべての将来キャッシュフローを現在価値に割り引いたとき、正味現在価値(NPV)がゼロになる割引率のこと。「この投資が実質何%の利回りに相当するか」を示す指標。単純な年間収益÷投資額の「表面利回り」とは異なり、投資回収期間・融資条件・税負担を含む時系列全体で評価する。


見落としがちな3つのコスト

多くの利回り広告が省略しているのが、以下の3項目だ。これらを正しく計上すると、IRRは大きく変わる。

① 固定資産税(償却資産税)

蓄電池設備は固定資産税の課税対象となる。電池本体の法定耐用年数は6年と短く、取得後しばらくは毎年20万円前後の税負担が発生する。20年間の累計では100万円を超えることもある。

② 電池劣化による後半収益の目減り

リチウムイオン電池は使用とともに容量が低下する。10年後に容量が10〜20%減少すると、充放電で稼げるエネルギー量が減り、後半の収益が落ちる。前後半で均一に収益が出るという前提の試算は楽観的すぎる。

③ アグリゲーター手数料

低圧の産業用蓄電池は、容量市場・需給調整市場への参加にアグリゲーターが必要になる。手数料は収益の20〜30%が相場だが、非公開のケースも多い。SIIのアグリゲーター指定一覧[3]には複数社が掲載されているが、手数料や実績は自社で確認する必要がある。契約前に必ず開示を求めるべき項目だ。


GXオークションは小規模案件では参加できない

「GXオークション(長期脱炭素電源オークション)に参加すれば収益が大幅に増える」という説明を営業から受けることがある。GXオークションの入札単価(第一回:約82,200円/kW)は確かに魅力的だが、最低応札容量は3万kW(30MW)[4]であり、個人・中小企業が保有する小規模BESSでは参加できない。

低圧BESS(49.9kW)の収益計算にGXオークションを含めるのは制度上誤りだ。BSRIでは、IRRモデルからGXオークションを除外した上で収益を計算している。

GXオークション(長期脱炭素電源オークション)とは:経済産業省が2023年度から運用を開始した、再エネ・蓄電池など脱炭素電源に対して20年間の収益保証を与える入札制度。落札した事業者は容量市場とは別に長期固定収入を得られる。ただし最低応札容量は3万kW(30MW)であり、大型プロジェクト向けの制度。低圧BESSが個別に参加する仕組みではない。


2026年の構造変化:収益モデルはさらに厳しくなっている

IRRの試算条件は静的ではない。2026年に入り、2つの重要な変化が起きている。

① 需給調整市場の単価引き下げ

資源エネルギー庁が審議会で示した単価引き下げ(上限19.51円 → 15円/ΔkW・30分)は、系統用BESSの主要収益源に直接影響する。さらに「競争環境が整わない場合は10円、最終的に7.21円まで段階的に下げる」という方針が示されており、下振れリスクが継続している[2]

② 前日市場への移行

2026年3月から、需給調整市場は前日入札方式に移行した[5]。従来のリアルタイム調達から翌日分を前日に入札する形になり、市場単価を見ながら柔軟に運用する「マルチユース」戦略が難しくなっている。複数収益源の組み合わせを前提とした精緻な運用設計が必要で、個人・中小企業が単独で対応するには高いハードルがある。

「高利回りの時代」は補助率1/2以内・市場単価19.51円時代の話だ。2026年現在、低圧・単体申請では補助率1/3以内・市場単価15円という条件でIRRを計算すると楽観シナリオでも4〜5%程度が現実的な範囲。高圧・10MW以上の束ね申請(補助率1/2以内)でも、市場単価の引き下げにより30%超えという水準は成立しない。


それでも「蓄電池投資」が成立するケースとは

IRRが4〜5%という数字は、銀行預金より高いが、リスクを考慮すると必ずしも魅力的な水準ではない。ただし、以下の条件が揃う案件では収益性が改善する。

「市場収益だけで利回りを成立させる」モデル一本に頼らず、立地・周辺需要家環境・設備規模に合わせた収益の組み合わせを探ることが、2026年以降の蓄電池投資で安定性を高める鍵になる。隣接地に専用線供給できる需要家がいるかどうか、マルチユース以外の収益源を組み合わせる余地があるかどうか——こうした立地固有の条件は、個別に検討しないと見えてこない。

需給調整市場の制度設計・単価見直し等に関するOCCTOの公式ページ。入札上限単価の改定経緯や制度詳細を確認できる。

産業用BESSへの主要補助金。現行(令和7年度補正)の補助率・公募スケジュール・採択要件を確認できる。IRR計算の前提として必ず最新版を参照する。

SII補助金受給に必要なアグリゲーター(SII指定)の一覧。手数料・条件は各社への問い合わせが必要だが、候補リストとして利用できる。

参考文献

  1. [1] SII 一般社団法人環境共創イニシアチブ「令和7年度補正 業務産業用蓄電システム導入支援事業 公募情報」https://sii.or.jp/DRchikudenchi_gyousan07r/public.html
  2. [2] 資源エネルギー庁「需給調整市場について」(第110回制度検討作業部会 2026年1月23日)https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/system_review/pdf/110_04_00.pdf(PDF内で「19.51」と検索すると該当箇所に移動できます)
  3. [3] SII 一般社団法人環境共創イニシアチブ「蓄電池アグリゲーター一覧(令和7年度補正)」https://sii.or.jp/DRchikudenchi_gyousan07r/aggregator_list.html
  4. [4] 経済産業省「長期脱炭素電源オークションガイドライン」(2025年8月27日改定)https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulations/choukigl_20250827.pdf
  5. [5] 北陸電力送配電「需給調整市場について」(2026年度以降の全商品前日取引化)https://www.rikuden.co.jp/nw_jyukyuchousei/