需給調整市場の上限単価が19.51円→15円/ΔkW・30分に引き下げられた。[1]
2026年3月の前日市場移行とも重なり、「利回り30%超え」の前提に使われていた収益モデルが崩れている。
この記事では、既存BESSオーナーと新規投資検討者それぞれが取るべき4つのアプローチを整理する。
何が変わったか:
2026年の市場変化を整理する
需給調整市場は、電力系統の周波数を安定させるために蓄電池・発電機を活用する市場だ。この市場で「電力の出し入れ能力(ΔkW)」を売ることが、系統用BESSの主な収益源になっていた。
| 変化項目 | 変更前(〜2025年度) | 変更後(2026年度〜) |
|---|---|---|
| 上限単価(三次調整力②) | 19.51円/ΔkW・30分 | 15.00円/ΔkW・30分 |
| 市場の入札タイミング | リアルタイム市場(当日) | 前日調整力市場(翌日分を前日入札) |
| SII補助率(低圧・単体申請) | CAPEX×1/2以内(旧制度) | CAPEX×1/3以内(令和7年度補正) |
| SII補助率(MW級・束ね申請) | CAPEX×1/2以内 | 1/2以内が維持されるケースあり(申請区分による) |
収益への影響:年間いくら変わるか
単価引き下げによる収益への影響を100kWシステムで試算すると、規模の差は関係なく同じ比率で収益が落ちる。
| 前提 | 年間稼働コマ数 | 旧単価(19.51円) | 新単価(15.00円) | 差額 |
|---|---|---|---|---|
| 100kW × 稼働率50% | 8,760コマ × 50% | 約86万円/年 | 約66万円/年 | ▲20万円/年 |
| 500kW × 稼働率50% | 8,760コマ × 50% | 約428万円/年 | 約329万円/年 | ▲99万円/年 |
| 1,000kW(1MW)× 稼働率50% | 8,760コマ × 50% | 約855万円/年 | 約657万円/年 | ▲198万円/年 |
※三次調整力②は1時間ブロック製品(8,760コマ/年)。表の試算は稼働率50%・落札率10%を前提とした概算値。「落札率」(入札が受理される割合)はアグリゲーター・運用条件・市場の調達量によって大きく異なるため、実際の収益は前後する。上表はあくまで単価変更による影響幅(比率)を示すもの。
1MWでも年間約200万円の収益が消える計算になる。これは10年間で約2,000万円の差だ。「市場が回復するまで待つ」という判断が通じる規模ではない。
なぜ単価は下がったのか
需給調整市場の単価が下がった主因は供給側(蓄電池)の急増にある。
- 蓄電池設備の急拡大:SII補助金と高単価への期待から、2023〜2025年にかけて系統用BESSの新設が急増。[2]
供給能力が需要(電力系統の需給変動量)を上回り始めた - 再エネ拡大による変動パターンの変化:太陽光の大量導入により、「昼間の出力抑制」と「夕方の急上昇」という特定パターンが固定化。
蓄電池が集中するコマが偏り、入札競争が激化した - 市場設計の見直し:OCCTO(電力広域的運営推進機関)が需給調整市場の上限価格を段階的に引き下げる方針を継続している
4つの生存戦略
単価引き下げへの対応は「諦める」か「代替収益を作る」かの2択しかない。以下に現実的な4つのアプローチを整理する。
戦略①:マルチユース収益の最大化
需給調整市場(三次調整力②)への単独依存が収益悪化の根本原因だ。同じ蓄電池でも、複数の市場を組み合わせるマルチユース運用によって収益総量を補うことができる。
組み合わせの構造
- 需給調整市場(ΔkW収益):系統の周波数調整。単価は下がったが依然として最大の収益源
- スポット市場(kWh収益):安い時間帯に充電し、高い時間帯に放電して差益を得る。需給調整市場の合間のコマを活用
- 容量市場(kW収益):「将来の供給能力を確保する」契約として固定収入を得る市場。入札は年1回、収益は比較的安定
3市場を組み合わせた場合の収益上積みは、アグリゲーターの運用能力と設備スペックによるが、需給調整市場単独比で年間+15〜40%の収益改善が期待できるケースがある(アグリゲーター各社の開示実績より推計)。ただし、すべてのアグリゲーターが3市場に対応しているわけではない。アグリゲーター選定の段階で「マルチユース対応の実績と手数料体系」を確認することが必須だ。
重要なのは、マルチユース対応は設備側ではなくEMS・アグリゲーター側の問題であることだ。同じ蓄電池でも、接続するアグリゲーターによって参加できる市場の数と最適化の質が変わる。既存オーナーは現在のアグリゲーターのマルチユース対応状況を今すぐ確認することを推奨する。
戦略②:アグリゲーター最適化(切り替え)
需給調整市場の単価引き下げが進む今、アグリゲーターの選択がこれまで以上に収益格差を生む。手数料率が1%違うだけで、1MWシステムの場合10年間で数百万円の差になる。
切り替え検討のタイミング
- 現在のアグリゲーター契約の解約可能時期・解約条件を確認する(多くが1〜3年の縛りあり)
- 解約時のEMS撤去費用・違約金の有無を試算する
- 候補のアグリゲーター(3社以上)に同一条件で見積もりを依頼し、手数料・マルチユース対応・SLAを比較する
戦略③:規模拡大・MW級束ね申請
これは新規投資を検討している段階の人向けの戦略だ。すでに設備を取得済みの場合、補助率の変更には効かない。
令和7年度補正予算では、低圧・単体申請(50kW未満)の補助率がCAPEX×1/3以内[3]に引き下げられた一方、アグリゲーター経由で複数施設を合算し1MW以上として申請するケースでは1/2以内が維持されるケースがある(申請区分・SIIの採択方針による)。
複数の施設オーナー・投資家が束になって申請する「バンドラー型」への参加を検討することで、補助率の差分をある程度埋めることが可能になる。ただし、束ね申請にはアグリゲーターが申請主体となる必要があり、参加できる蓄電池規模・仕様の要件を事前に確認する必要がある。
戦略④:需要家PPAによる固定収益の追加
市場価格の変動リスクを根本から下げるには、市場に依存しない固定収益源を追加するという発想の転換が必要だ。
具体的には、BESSが設置されている土地の近隣に位置する製造業・病院・商業施設と、小売電気事業者を仲介とした長期電力購入契約(オフサイトPPA)を組み合わせる方法がある。需要家はRE100対応・電気代の固定化を求めており、BESSオーナー側は市場収益(変動)に固定収益をミックスできる。
この戦略が有効な条件
- 設置地の近隣(専用線で繋げる距離、もしくは同一系統エリア内)に需要家候補がいる
- RE100・SBT達成を求められている製造業サプライヤーや、電気代の変動を嫌う医療施設が周辺にある
- 小売電気事業者との連携が可能な体制を作れる
すべての立地でこの戦略が使えるわけではないが、立地固有の条件を一度精査する価値がある。市場収益一本で成立させようとするモデルよりも、IRRの安定性が増す可能性がある。
「市場回復待ち」は戦略ではない
どこから手をつけるか:優先順位の整理
- 1 現在のアグリゲーター契約書を開く:解約条件・EMS所有権・マルチユース対応の記載を確認する。アグリゲーターが開示しているマルチユース実績(需給調整+スポット+容量の対応市場数)も確認する
- 2 昨年の実績収益をアグリゲーターから取得する:kWh単価・市場別の収益内訳を開示してもらい、15円単価の影響を把握する
- 3 代替アグリゲーター候補を2〜3社ピックアップする:SII指定アグリゲーター一覧から、マルチユース対応・手数料開示をしている事業者に絞って比較する
- 4 設置立地の需要家環境を調べる:近隣1km以内に製造業・医療・物流施設があるか確認する。PPA可能性の有無で戦略の優先順位が変わる
設備・アグリゲーターいずれとも利害関係のない専門家への相談が、戦略選定の最初の一手になる。既存BESSの収益実績データを手元に用意したうえで、現状分析から入ることを推奨する。
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参考文献
↑ 本文に戻る- 資源エネルギー庁「需給調整市場について」(第110回制度検討作業部会 2026年1月23日)— meti.go.jp(PDF内で「19.51」と検索すると該当箇所に移動できます)
- 資源エネルギー庁「系統用蓄電池の迅速な系統連系に向けて」次世代電力系統ワーキンググループ資料(2025年9月24日)系統用蓄電池の接続検討9,544件(2023年度1,599件から約6倍) — meti.go.jp
- SII(一般社団法人 環境共創イニシアチブ)令和7年度補正 業務産業用蓄電システム導入支援事業 公募要領 — sii.or.jp
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