充当率100%・交付税措置率70%——緊急防災・減災事業債を使えば、蓄電池単体の避難所整備でも実質負担を事業費の約3割まで圧縮できる。太陽光とセットでなければPPA(電力購入契約)事業者の投資回収モデルが成立しにくいという壁に、過疎・辺地地域の自治体は直面しやすい。この記事では、自治体が自ら蓄電池を保有し地方債(起債)で賄う代替案の仕組みと、導入前に確認すべき注意点を整理する。
なぜ蓄電池単体の避難所整備で
PPAが組めないのか
PPAは、民間の発電事業者が自己資金で太陽光・蓄電池を設置し、施設側が電気代として使用料を支払う仕組みだ。事業者が投資回収できる根拠は「発電した電力を継続的に売る」ことにあり、太陽光発電の売電収入・自家消費削減効果が前提になっている。
ところが避難所整備で求められるのは、太陽光ではなく蓄電池単体であることが多い。停電時に非常用電源として使えればよく、平時の発電収入は主目的ではない。この場合、事業者にとっては継続的な収益源がなく、投資回収の見込みが立ちにくい。「蓄電池単体・防災専用」という条件でPPAの提案を募っても、事業者が辞退する、あるいは提案自体が集まらないという結果になりやすい。
過疎・辺地地域ではこの傾向がさらに強まる。施設の稼働率・電力使用量が小さく、事業者にとって案件規模が採算ラインに届かないためだ。「PPAで初期費用ゼロ」を前提に計画を進めていた自治体ほど、事業者選定の段階でこの壁に直面しやすい。
PPA以外の選択肢:
自治体保有+起債という道
PPAが組めない場合の代替案は、自治体が自ら設備を取得・保有し、その資金を地方債(起債)で賄う方法だ。
「予算がないからPPAを検討していたのに、自治体保有では初期費用がかかるのでは」と思われるかもしれない。しかし起債は借入であり、初期の現金支出そのものではない。加えて地方債の一部には「交付税措置」という仕組みがあり、元利償還金の一定割合が後年度の地方交付税に算入される。実質的な自治体負担は、額面の事業費よりも大きく圧縮される。
BSRIが確認した範囲では、自治体保有型の資金調達で使える手段は地方債(起債)系にほぼ限られる。ふるさと融資(地域総合整備資金貸付事業)・株式会社脱炭素化支援機構(JICN)・しんきん脱炭素応援ファンドといった融資・出資制度もあるが、いずれも融資・出資の相手は「民間事業者」であり、自治体自身が借り手・出資受け手にはなれない。(ふるさと融資は法人格を有する民間事業者が対象で、国・地方公共団体が100%出資・出捐する法人は除外される1と確認済み。JICN・しんきん脱炭素応援ファンドも、支援基準・スキーム図上、出資・投融資の相手は一貫して「民間事業者等」2「対象企業」3と規定され、地方公共団体は合意形成の連携先としてのみ位置づけられている。自治体自身を直接の出資・融資対象とする明文規定は無いが、条文構成上、対象は法人(事業者・企業)に限定されると解される)自治体が自ら蓄電池を保有する場合、実務上の選択肢は地方債に絞られる。
使える地方債:
緊急防災・減災事業債の仕組み
自治体保有型の地方債にはいくつか種類があるが、蓄電池整備との相性は事業ごとに異なる。
脱炭素化推進事業債・過疎対策事業債・辺地対策事業債(辺地=過疎とは別の法律区分だが、対象地域が重なることが多い)は、運用要綱上「再エネ設備に付随する蓄電池」という位置づけで、太陽光発電等とのセットが前提になっている。蓄電池単体(再エネ設備なし)を主体とする起債は、この3つの要綱の文言からは読み取れない4。
一方、避難所整備の代替案として本命になるのが、緊急防災・減災事業債だ。国の補助金と組み合わせない自治体単独の事業が対象で、総務省の運用要綱には、指定緊急避難場所・指定避難所・防災拠点となる公共施設等における「避難者の安全性向上や災害応急対策の継続のために必要な電源設備等(非常用電源を含む)」4が対象事業として明記されている。蓄電池を「非常用電源」として、太陽光等の再エネ設備とセットにせず避難所・防災拠点向けに整備する場合、この起債の対象になる余地がある。
実質負担はどこまで下がるか:
起債単独での試算
地方債は、充当率(事業費のうちどこまで借入で賄えるか)と交付税措置率(元利償還金のうちどこまで後年度の地方交付税に算入されるか)の2つの数値で実質負担が決まる。緊急防災・減災事業債は充当率100%5——事業費の全額を起債で賄える。交付税措置率は70%で、その返済額の7割が将来の交付税に算入される。事業期間は令和8年度から令和12年度までの5年間延長6が確定している。この水準は一般市・過疎地域を問わず一律で、地域による優遇差は確認できなかった。
BSRIが試算したところ、国庫補助と組み合わせず緊急防災・減災事業債だけで整備する場合、充当率100%のため初年度に現金で支出する一般財源分は0%、元利償還金のうち交付税に算入されない3割相当が自治体の実質負担となり、名目実質負担は事業費の約30%まで圧縮できる。
| 論点 | PPA(第三者保有) | 自治体保有+起債 |
|---|---|---|
| 初期現金支出 | ゼロ | 充当率100%のため現金負担が発生しない |
| 蓄電池単体(太陽光なし) | 事業者の採算が合わず組成困難なことが多い | 防災用途(非常用電源)なら起債で対応できる余地がある |
| 長期の実質負担 | 電力購入料に事業者の資金コスト・利益が乗る | 交付税措置で名目実質約30%まで圧縮できる |
| 災害時の自立電源信頼性 | 契約・事業者の存続に依存する | 自治体が完全に制御できる |
| 適地 | 平時の電気代削減が主目的の施設 | 過疎・辺地/BCP目的が明確な避難所・庁舎 |
「単独充当」の可否は事前照会が必要
ここまでの内容から「防災用途なら蓄電池単体でも起債で確実にいける」と読めるかもしれないが、そう言い切るのは正確ではない。
総務省の運用要綱に記載されているのは「電源設備等(非常用電源を含む)」4という表現であり、この条文の中に「蓄電池」という単語は登場しない。蓄電池がこの「電源設備等」に含まれると解釈できる可能性は高いが、条文上の確定的な裏付けとまでは言えない。
「電源設備等(非常用電源を含む)」という同じ文言は、緊急防災・減災事業だけでなく、優遇度の低い通常の「防災対策事業」という別区分にも存在する。緊急防災・減災事業は東日本大震災を教訓に設けられた時限の強化措置で、通常の防災対策事業より充当率・交付税措置率とも有利な条件になっている。整備する案件がどちらの区分に分類されるかによって、実質負担の水準は変わりうる。
したがって、蓄電池単体でこの起債を使えるかどうか、また緊急防災・減災事業の優遇条件が適用されるかどうかの確定判定は、総務省自治財政局または都道府県の市町村課への事前照会が必要になる。予算要求の前段階で、対象施設・想定規模・非常用電源としての位置づけを整理したうえで照会するのが実務上の進め方だ。「使える制度がある」ことと「自分の自治体の案件で確実に有利な条件で使える」ことの間には、この事前照会という1ステップがあることを認識しておく必要がある。
過疎・辺地×BCP目的なら検討する
価値がある理由
不確実性を踏まえてもなお、この代替案が有効な条件は2つに絞られる。1つは、PPA事業者が採算を理由に案件から撤退した、あるいは提案自体が集まらなかった過疎・辺地地域であること。もう1つは、蓄電池整備の目的が平時の電気代削減ではなく、避難所・防災拠点のBCP(事業継続計画)であることが明確であることだ。
この2条件が揃う施設では、そもそもPPAという選択肢が現実的でない。一方で自治体保有+起債であれば、充当率100%・交付税措置率70%により実質負担を事業費の約3割まで圧縮できる。災害時の自立電源としての信頼性も、契約・事業者の存続に依存するPPAより、自治体が直接制御できる保有型のほうが高い。
逆に、平時の電気代削減効果を重視する施設や、太陽光とのセットで導入できる施設であれば、従来通りPPAまたは重点対策加速化事業・地域レジ事業等の補助スキームを優先する方が現実的だ。この代替案は「PPAが組めない蓄電池単体・防災専用」という限定的な条件に刺さる選択肢として位置づけるのが妥当である。
📖 本記事に登場する用語
- 辺地
- 辺地に係る公共的施設の総合整備のための財政上の特別措置等に関する法律(辺地法)に基づく概念。交通条件や自然的・経済的・文化的諸条件に恵まれず、住民の生活文化水準が他の地域に比べて著しく低い山間地・離島等の地域を指す。過疎地域とは別の法律上の区分だが、対象地域が重なることが多い。
- 地方債(起債)
- 地方公共団体が財源を調達するために発行する債券・借入。事業費を単年度の一般財源だけで賄わず、複数年度に分割して返済する仕組み。
- 充当率
- 事業費のうち、地方債(起債)で賄うことができる割合。充当率100%なら、事業費の全額を借入で賄える。
- 交付税措置(元利償還金への算入)
- 地方債の元利償還金(借入の返済額)のうち、一定割合を後年度の普通交付税の基準財政需要額に算入する仕組み。算入された分は国から実質的に補填される形になり、自治体の実質負担が圧縮される。
- 緊急防災・減災事業債
- 大規模災害時の防災・減災対策に必要な施設整備を対象とする地方債。充当率100%・交付税措置率70%と、自治体保有型の地方債の中でも優遇度が高い。東日本大震災を教訓に設けられた時限の強化措置で、令和8年度から令和12年度まで5年間延長されることが確定している。
- 防災対策事業
- 緊急防災・減災事業とは別の、通常の一般単独事業の枠にある地方債区分。同じ「電源設備等(非常用電源を含む)」という対象事業の文言を持つが、充当率は細目により75〜100%程度5と幅があり、緊急防災・減災事業(一律100%)ほどの優遇は受けにくい。緊急防災・減災事業が使えない場合の受け皿となる区分。
- PPA方式
- Power Purchase Agreement(電力購入契約)の略。民間の発電事業者が自己資金で太陽光・蓄電設備を設置し、発電した電力を施設側が購入する契約。自治体側の初期費用はゼロだが、事業者の投資回収モデルが成立する案件でなければ組成されない。
- BCP
- Business Continuity Plan(事業継続計画)の略。大規模災害や停電時でも行政サービス・施設機能を維持・早期復旧させるための計画。蓄電設備は停電時の電源を確保する手段としてBCPの一部に位置づけられる。
- 重点対策加速化事業
- 地域脱炭素推進交付金のうち、脱炭素先行地域に選定されていない全国の市区町村も申請できる補助スキーム。その他市区町村の交付上限は10億円7・交付期間概ね5年。0.5MW以上8の再エネ発電設備の導入が申請条件で、太陽光とセットでない蓄電池単体案件は対象になりにくい。
- 地域レジ事業
- 「地域レジリエンス・脱炭素化を同時実現する公共避難施設・防災拠点への自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業」の略称。環境省・EIC(一般財団法人環境イノベーション情報機構)が執行する補助金で、避難所・防災拠点への太陽光・蓄電池等の導入を支援する。
参照・出典
↑ 本文に戻る- 一般財団法人地域総合整備財団「ふるさと融資の手引き」(令和6年4月)— 貸付対象者は法人格を有する民間事業者(国・地方公共団体が100%出資・出捐する法人は除く) — https://www.furusato-zaidan.or.jp/wp-content/uploads/2019/09/7b3ef4d63ce5448d6549215f0fc12e12.pdf
- 環境省告示第79号「株式会社脱炭素化支援機構支援基準」(令和4年10月28日・令和6年12月27日改正)— 対象事業活動支援の対象を「民間事業者等」と規定し、地方公共団体は立地検討段階での合意形成の連携先としてのみ位置づけ — https://www.jicn.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E8%84%B1%E7%82%AD%E7%B4%A0%E5%8C%96%E6%94%AF%E6%8F%B4%E6%A9%9F%E6%A7%8B%E6%94%AF%E6%8F%B4%E5%9F%BA%E6%BA%96%EF%BC%88R7.4.1%E6%96%BD%E8%A1%8C%EF%BC%89.pdf
- 信金キャピタル株式会社「株式会社脱炭素化支援機構と連携した『しんきん脱炭素応援ファンド』の組成について」(2025年4月10日)— 投融資の相手は「対象企業」(普通株式・種類株式・社債・劣後ローン等)と規定 — https://www.shinkin-vc.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/4203fe1533b8f8a18db1c201231619d0-1.pdf
- 総務省「令和8年度地方債同意等基準運用要綱」(総財地第148号)— https://www.soumu.go.jp/main_content/001002600.pdf
- 総務省「令和8年度地方債充当率」— https://www.soumu.go.jp/main_content/001002597.pdf
- 総務省「令和8年度地方財政対策の概要(通常収支分)」(緊急防災・減災事業費及び緊急自然災害防止対策事業費の拡充・延長/令和7年12月26日付)— https://www.soumu.go.jp/main_content/001048685.pdf
- 環境省「二酸化炭素排出抑制対策事業費交付金(地域脱炭素移行・再エネ推進交付金)交付要綱」— 重点対策加速化事業の交付上限額(その他市区町村:1計画あたり10億円・令和6年度以降)・交付期間(概ね5年) — https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/assets/grants/1-1-CDS-kofu-yoko.pdf
- 環境省「地域脱炭素推進交付金 FAQ」(令和7年6月更新)— 重点対策加速化事業の再エネ発電設備導入要件(その他市区町村:0.5MW以上、問3) — https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/assets/preceding-region/boshu-06/6th-KOUFUKIN-faq.pdf